『CARNIVAL』

『CARNIVAL』(S.M.L)
  ASIN:B0001N7SCE

 月の表面に小さな蛆が無数に湧いて、その蛆が月面に笑顔を形作っている。
 表面だけ笑みの形を作った、見下すような蔑むような腐敗した気持ちの悪い笑顔だね。

 出だしのこういう比喩表現大好き。
 
 桑島由一が原作ということで、完膚無きまでにああそういう話かと思いつつ読めると思いますが、予想外にハッピーなエンドで驚きました。
 この話は、単純に話せば、主人公が殺人犯として追われてから、本格的に逃亡を開始するまでの話。
 要所要所で、主人公や他の登場人物の生い立ちを執拗に描き続けています。
 ある意味で、よく書ききった作品です。人の狂気というものを主観で書くというのは簡単でいて難しくて簡単だったりしますが、簡単な面だけじゃなくてきちんと手段と目的が行き違っていくというシーンを意図的に書き上げている、あの地の文は凄い。とても凄い。
 あと、登場人物にやけに教養を持たせているのが凄かったりします。あの教養の付け方は、物語的な要素としては、人物の考え方を投影するために持ち出してあって、ただのうんちくに留まらないので、ものすごく問題なく読めていく。
 文章力に関しては一級品です。
 
 このゲームでは、崩壊が前提です。殺人犯としてパトカーで護送中の主人公がたまたま逃げだし、九条理紗の家で生活を送りますが、この生活は崩壊が前提です。どんどん崩壊の要素として、いじめを受けていた先輩やたまたま巡回にきた警察官やらそういうのが幼なじみの家に監禁されていきます。当然、そんな生活は崩壊しますし、主人公の精神も一旦崩壊します。
 今までの認識を一旦すべて崩壊させない限り、何も見えてこない。
 そうやって崩壊した上で、主人公視点でのシナリオが終了。
 そして、あとの2つのシナリオで、事件当事者の別の視点から物語が語られていきます。全ての事情が明るみに出てから、主人公と九条里紗が逃亡の旅に出る。
 そこまでの姿を洩らすことなく描き切れた逸品ですよ。
 あと、物語を終演させるためには、このルートしかありません。当然です。
 まぁ確実に主人公が逃亡するのは間違いないのですが、その逃亡相手に幼なじみ(九条理紗と、その友達(渡会泉)と2パターンのエンディングがあります。渡会泉エンドにおいては、とても表面上では幸せそうですが、まったくもって物語的に救われていない。九条理紗ルートにおいてでない限り、やはり何一つ解決しなかったりします。それが当事者の幸か不幸かは別として物語的には。
 
 正直言って、今現在カラッポなので何も言葉が出てこない感じですが、はっきり言って何から書けばいいのかまったくわかんねーので、こんな感じで勘弁な。
 なにはともあれ、あの描写は凄いって。生半可なものじゃ太刀打ちできないキチガイレベル。