『大沢さんに好かれたい。』

『大沢さんに好かれたい。』桑島由一角川スニーカー文庫角川書店
  ISBN:4044713014

 つーわけで、桑島由一、角川での新刊ですね。飛ばしてますね。
 正直、スロースターターという印象を持っていたのですが、どこをどうやっても続編に持ち込もうとしないこのスタイル。そしてギャグテイストの地の文を削ぎ落として、とても真っ当なライトノベルスタイルになっています。
 あー、ライトノベルスタイルとして読むなら、めちゃくちゃ及第点以上じゃないんですかね。そして、シナリオの抉る鋭さも案外いいとこ突いて巧く纏めましたね。
 だのに、なんだろう、この不満感。
 いや、面白かったよ。真っ当なライトノベルとして。でも黒雨が桑島由一に感じた「やってくれた感」を感じなかった。桑島由一テイストはあるのだけれど、桑島由一らしさである、あの長所と短所がこびりついて離れられない、あの個性的な面がこそぎ落とされたのが不満なんだと思います。いや、そこをこそぎ落としたのはある種の英断であり、面白いものを書いたと思いますよ。
 ただ黒雨が満足いかないだけ。あのエンドに至る直前に、主人公の大地守が大沢さんと離れていって、ああなるまでのシーンに。絶望が足りない。絶望が、足りないんだ。桑島由一氏の強みは、文体のテイストもあるが、シナリオ展開中におけるオーラの発揮だと思うんです。だからこその、あの既作に感じられたあの絶望感が効いてこそのハッピーエンドだったりバッドエンドだったり、というものがあるんですよね。その絶望感が足りなくてちょっと拍子抜けしました。
 
 あ、黒雨は趣味が悪いですからね。気にしないでくださいね。繰り返し述べたように、夜に思われているライトノベルテイストとして、恋愛ものとヒーローものを混ぜたものとして、充分に面白いものですよ。だからこそ惜しい!って感情を黒雨は抱きました。とそれだけの事でした。