『女王蜂』

『女王蜂』横溝正史/角川文庫緑/角川書店
  ISBN:4041304113
 
 いや、ISBNは改版の方へリンク。読んだのはISBNコードない時代のなので。
 正直に言えば、こういう作品は中学生の頃に読んでおくべきだった。そうすれば、多感なあの頃なら推理小説にのめり込めるのだろうけれど、現在のように確固とした読書傾向を持ってしまうと「乱読」といった行為が全く出来なくなってしまうのだ。
 これは悲しいことである。なにせ、自分が普段読むのに似た作品以外を全て切り捨てることになるからだ。
 まぁ、そこまでかっちりとした傾向ではないから、楽しめたんだけれど、黒雨が持つバックボーンとかフィールドとか、そういうのに該当する物がない。かといって、新たに開拓していけるほど、読書体力が残っていない。
 だから、そうだな。面白いと思っても、そこに突き進んでいけるほど、黒雨には読書行動力というのが失われてしまっているのか、というのを読んでてずっと感じてた。
 ああ、悲しいったらありゃしないね。
 
 まぁ、それは別に置いておくとしても、ここはそういった凝り固まったものをほぐすように、ちょっとずつリハビリテーションしていくことも必要かなと思うんですよ。
 広い視野が必要なんです。ワイドアイ。ヨードラン光。グローバルスタンダード。そういう世界に僕らは居るのですよ。
 
 それはともかく話は戻って。
 細々とした仕掛けってのは、案外好きで、ぎこばたぎこばたくるくる回転するような展開で楽しいのですよ。それが淡々とした形で描かれている。解説かなにかに書いてあったけれど、人間が描けていなくてもリアリティーがどうのこうの、とかいうのには納得。いや、持ってるのなら完全に引用しろよって話だな。ちょっと待って。「登場人物がすべて傀儡にすぎず、しかも面白い読物」とかか。あれ、なんだか違うな。引用してよかったよかった。
 まぁ、そういうわけで、人間については描かれていないのですが、淡々と描写される人間臭さには興味があります。いや、黒雨は推理小説っぽい小説を読む時は、大体動機まわりの葛藤に食指が動くのですよ。作品中にはストーリーテリングとしての推理展開がしっかりなされている中で、人物背景と動機だけ説明しておき、人間の内面に踏み込むことを決してしないスタイルは、逆に冷徹に読み手に想像させるところが強く、淡々としているが故の空恐ろしさってのが楽しいっすよ。
 
 とまぁ、こんな程度でお茶を濁していいっすか。お茶目に過ごしていいっすか?