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『ドラモンド家の花嫁(1)(2)』

『ドラモンド家の花嫁(1)王宮は陰謀だらけ』冴木忍角川スニーカー文庫角川書店
『ドラモンド家の花嫁(2)憂鬱な月が満ちるまで』冴木忍角川スニーカー文庫角川書店
  
 ISBN:9784044138325 ISBN:9784044138332
 
 なんかなんとなく最近買って読んだんですけれど、とても素晴らしい。
 ありし日の「<卵王子>カイルロッドの苦難」を読んでいる時のような。まぁ「カイルロッド」に関しては思い出補正がどうしてもあるのでさておいても。
 このシリーズで素晴らしい点は、何はなくとも登場人物それぞれが、物語を主軸としているわけでも、キャラを主軸としているわけでもなく、ちゃんとそれぞれの価値観をベースに動いているところだと思うわけです。
 表題にもなったドラモンド家という、その血族ゆえに忌み嫌われて“呪われた家”の当主であるアルトゥース、食べ物を食べても食べてもお腹がすいてしまうという身体特性のために勤め先を追い出されてドラモンド家で働くことになったメイドのジャスミン、ドラモンド家に呪いをかけてその行く末を見守る魔物クーロウ。
 この三者はそれぞれが、それぞれの事情を持った上で、なおかつそれぞれの価値観の上で動いている。ストーリーでキャラを立てるのでもなく、キャラがたってストーリーが派生するでもなく、物語と関係ない部分で、キャラクターがそれぞれ感情を持った一個の人間味というものを持ち合わせている。
 その事実だけで、この小説は十分に読み応えのあるものとなっていると思うわけで。
 当然ながら、ストーリーとあまりに関係のないバックボーンや、登場する「魔物」であったとしたらその魔物の定義、存在定義などは省かれている。なぜなら、作品として生み出す上での筋書きにあまりにも関係のない細部であるから。前提として説明すべき部分については、作中で十分に描かれているからこその省略なのだ。
 ただあくまでも、省略していても、バックボーンがしっかりと提示されていることが重要だ。それぞれのキャラクターの行動が活きてきていて、キャラクター同士の意見の衝突が見ていて納得のいく筋書きとなっている。
 
 さらに踏み込んでいうのであれば、純粋に考えたときにこの作品は売れるライトノベルとしては失敗なのかもしれない。キャッチーなキャラクターもいなければ、突飛なストーリーもない。ただ、キャッチーなキャラクターがいて突飛なストーリーがあればいいのかというと、作品としては必ずしもそうではないはずだ。
 この作品は、正直徹底的に地味である。でも地味であることが悪いことではない。もともとライトノベルが集約してきたジャンル小説の一端を担っていた「ファンタジー」の部分を、読みやすく丁寧に解体するという作業において、冴木忍作品は実に安定したクォリティだ。
 旧来のジャンル小説である「ファンタジー」が持っていたいわゆる魔法といったものに対するアプローチについて、それを“そういうもの”としてストーリーとして関係ないのであれば定義の掘り下げをしない。そういう英断においては素晴らしく、またその定義部分に関しては省いている割には重要なポイントだけは押さえている。
 この取捨択一の妙は、完成度が高ければ高いほど、当然ながら表に出てこないものだ。省かれてしまっているからこそ見えていない完成度。そして必要最低限で世界観を提示することで、キャラクター一人一人が持つ考え方のベース、バックボーンが浮き彫りになってくる。
 “省略”によってキャラクターを浮き彫りにさせることにより、読者側から見ればどのキャラクターの発言にも共感できる。そのような作品作りは、並大抵ではできないことだと推察するのだけれど、それを平気でやってのけるのが冴木忍という著者力なのではないだろうか。
 いや、正直おすすめは上にあげた「カイルロッド」シリーズなんですけれど。
 
 聖竜伝の新シリーズは、旧シリーズを受け付けなかったのでスルーしてて、最新シリーズは表紙イラストがあまりにもローゼンすぎてスルーしてたので、こちらから。
 最新シリーズの「ff」も買ってみようかな、と思わせてくれた新シリーズでした。