第01話:そこに世界はあるのかと問う。

 私立A高校。見た目が全く変わっていないその校舎に足を踏み入れると、大したこともない威圧感が高校内を取り巻いていた。
 なんだ、大したことねーよ。緊張して損したっつの。
 
 心の中でぐはぐは笑いながら、控え室へ向かう。
 
 き、きたっ!
 無言のプレッシャーだ。ああ、痛いぞ、痛いぞ!? 教育実習生同士が一番プレッシャーだ。そうなんだ。黒雨に植え付けられてしまった世間一般の感情やら常識というものが、黒雨の性質と相反するからこその無力感。同学年だからこそ「仲良くできるだろう」的な圧迫感。なんだそれ。人間滅べよ。相手が純粋無垢に「他人」であるということだけで、畏怖の対象になってしまうんだよ。これだよ! これが黒雨の、ちっぽけでちっぽけな黒雨の全てだ!
 
 という心の叫びは誰にもトドカネーってば(嗤)。
 エスパー伊藤ならいそうだけど、エスパーはこの学校にはいねー。
 エスパー伊藤って神だから。
 
 教室に足を踏み入れたら、生徒がやっぱり元気すぎ。対処しきれねーよ。どっから湧いてんだよ。脳からウジ虫以上だっつの。自己紹介したあとで盛り上がられても困るっつの。「ドウシツした?」とか聞くなよてめーら。意味わかんねーから。「童貞喪失のことだって」「略すなよ」「んでしたの?」
 うるせーよ。
 どーせてめーらの方が進んでるんだろ。繰り返し言うがこの日記には「20代の童貞」で検索して飛んでくる奴がいるんだ。そいつと一緒に名古屋港水族館キダムを誘致させるぞ。
 
 初日はあっさり終わって指導教官から追い出されて帰宅しますよ。ええ。もう恨めしい以外の感情は最初から捨ててるからさ。