『白鳥の歌なんか聞こえない』

白鳥の歌なんか聞こえない』庄司薫/中公文庫/中央公論新社
  ISBN:4122041015
 
 庄司薫の薫クンシリーズ。
 今回の作品内を取り巻くのは、人生の終焉を迎えるという事をどう捕らえるか、だ。それが作中に溢れている。
 人生というものは虚しい。空しい。感覚として「むなしさ」がつきまとう。終わりがあることが決まっているから。その中でどう生きるか、ではなく、その「むなしさ」というものが直接的に伝わってくる書かれ方をしている。
 浪人生である主人公が、様々な非日常の線上に近いような日常(あるいは日常に近い非日常)を過ごす。人間関係が少しずれ、そのきわどい心情を書かれた当時の「若者」に近い感覚で書かれている。
 だが、それは時代を経たところで色褪せるわけではなく、生きている上での「むなしさ」というものは何時の時代にも共通のものだ。現在の作家が過剰に前面に押し出しがちなそれを、庄司薫は作中できわどく提示する。
 
 僕たちは常にどこかで間違っている。その間違いは間違えるべきもので、そういった事を手触りと共に感じさせてくれる。
 自分の残りの人生がどれくらいかは知らないけれど、それまでに何かを見つけるのではなく、延長線上に何かと出会いたい。
 そんな小気味良い読後感を感じるために、まだ「若者」と形容されるうちに読んでよかった作品。