『ゼロヨンイチロク』
『ゼロヨンイチロク』清水マリコ/MF文庫J/メディアファクトリー
ISBN:4840111073
というわけで、清水マリコなんです。
MF文庫Jで書く前は「Kanon」やら「終末の過ごし方」やらのノベライズを担当したり劇団やってたり、色々してるのがこの方なのですが、オリジナル小説として刊行された『嘘つきは妹にしておく』が素晴らしかった清水マリコですよ。
今作は別になんでもないちょっと不思議なお話として流すことも出来る感じでした。
出来るっていうのはそのままの意味で、そうとも取れるという意味です。作中でも述べられているけれど「気付かなければ流せてしまうちょっと不思議な出来事」に自分を重ねてさえしまえれば話は膨らみます。
このストーリー、芯が一本通ってるけれど、肉付けがされているようでされていない。
今までの清水マリコ作品にあるような肉付けなんだけれど、どこか素材が違う。今回のは上書きできそうな素材を使っている。
これを読む読者は、ストーリーを楽しむだけだとちょっと不思議な話と感じて終わるだろう。あとがきにも述べられているように、どこから始まっていてどこで終わりか明確に区切りがつけられないけど確かに大枠があるっていう話。
その淡泊な肉付けの効果の真骨頂は、物語ではなく読者の中で華開くんじゃないだろうか。
読んだ読者が何を『ゼロヨンイチロク』に重ねて読むか。読者が『ゼロヨンイチロク』に重ねさせられてしまう思考。この話はそっちに重点があるんじゃないだろうか。
結構、淡泊な肉付けのなされたライトノベルってあると思うんですが、この作品は該当するそれらより突き抜けて、読者の想像が入る隙がある。作中の何でもないようでちょっと怖い童話に自分たちを重ねていく主人公たち、と同じ構図が『ゼロヨンイチロク』を読む読者に当てはめられているんじゃないだろうか。
なんていう黒雨の想像も『ゼロヨンイチロク』を読んだ人の枝葉に過ぎないんだろうけどね。