『白のふわふわ』

白のふわふわ山名沢湖/BEAM COMIX/エンターブレイン
  ISBN:4757720718
 
 なんだこれ。凄すぎる。
 正直な感想が、この二言に集約されてしまいました。前に取り上げた三冊より群を抜いて素晴らしい。と感じるのはまぁ黒雨の趣味なんだけど。
 正直第9話の「夏休みが待ち遠しい」については習作的なものしか感じられなかったが、他の話はそれぞれにぶっ飛んでいて、これがよくもまぁ一冊にまとめられたものだと感嘆するばかりです。でも『スミレステッチ』と『白のふわふわ』が同時に同じ版元から発売されたのはなんとなく分かります。
 というのもですね、今回の『白のふわふわ』と『スミレステッチ』ではまったくもって違う。なんというか違う。一応ついでに述べるなら『委員長お手をどうぞ』はどちらかというと『スミレステッチ』側の話だ。
 どのように違うかというと、『スミレステッチ』はあくまで根本は少女漫画にある。それに色々味付けがなされることでああいう形になっているのだ。そして『白のふわふわ』は、話の作りを少女漫画「的」な要素を用いるという手法で書かれているだけで、根本は少女漫画ではないのだ。
 以前に『委員長お手をどうぞ』で取り上げて頂いたうたたねこやさんところにて、うたたねこさんは以下のように述べている。

最近わたしはそういったタイプの漫画のことを流星ひかるのデビューコミックス『半分少女』から名前を取って「半分少女漫画」と某所で呼んでたりします。
半分少女漫画(http://utata.s18.xrea.com/200412.html#05_t2)

 さきほど黒雨が二分化した『スミレステッチ』側の話と『白のふわふわ』側の話、それはどちらも同じように見えるのだが、違うのだ。うたたねこさんの言葉を借りるなら、半分なのだ。
 『スミレステッチ』においては根本に少女漫画があるという意味での「半分」であり、『白のふわふわ』においては少女漫画的要素を使うという意味での「半分」が使われている。『スミレステッチ』と『白のふわふわ』が二つ合わさると、丁度「ひとつ+α」の少女漫画になるであろう。
 だが、それを二分化し、別の要因を付けることで山名沢湖は話とんでもない方向へと持って行っている。そのとんでもなさが『白のふわふわ』には溢れているのだ。第2話「ハミング」や第4話「電話線」では、それがもっともわかりやすい形で現れている。第3話「ふわふわりん」の破壊力に至ってはもうお手上げである。読んでいて星新一ショートショートのような出来のよさを感じました。
 そして、ここが重要だと黒雨が勝手に思っているんだけれども、こうやってぶっ飛んでいった話を、全てある意味において「少女漫画」もしくは「恋愛漫画」と称されるタイプのストーリーへと収束させている点だ。だからこそ、山名沢湖は少女漫画家なのだろうなぁと思ってみたり。
 それにしても作者名を載せるところが「漫画」ではなく「話・絵=山名沢湖」となっているのが憎い演出だなぁ、エンターブレイン
 
 とりあえず、この一冊を読んで胸に残ったこの感覚は、まぎれもなく「郷愁」でした。いいからみんな買えばいいと思うのです。
 
 なんか長々と書いてしまいました。それも夜中に卒論やりながら書く文章じゃないと思います。だからなんか見当はずれな事を書いている気がするけど、読み直しが辛いので、卒論後ということでひとつ。