『こなたよりかなたまで』

こなたよりかなたまで』(F&C)
  ISBN:B0000X2CYO
 
 amazonにアクセスすると何故かユニゾンシフトの『Peace@Pieces』(通称「ぴすぴす」)を見てしまいます。欲しくてたまらないので、誰か黒雨に買い与えればいいと思うよ。
 
 あー、んでこの『こなたよりかなたまで』(通称「こなかな」)なんですが、激しく普通な作りをしていてムカツクんです。 
 この話、設定として主人公が、癌で死ぬという前提があります。末期癌で半年くらいしたら死ぬのね。んで、両親とは既に死別していて一人暮らしをしているんだけど、そこに紛れ込む吸血鬼クリステル(♀)。吸血鬼がくることで死ぬまでの過ごす時間が変わるのです。
 このハッピーエンドが酷い。酷いの。
 だって、ハッピーエンドで吸血鬼に主人公が噛まれて生き延びるし。びっくりした。この物語のテーマ性を全部捨てるその精神には脱帽です。そんなエンディングにするなら、最初からやる意味ねーっつの。この吸血鬼が吸血鬼でいる意味が本気でない。主人公は健康体でいいし、吸血鬼もただの人間の転校生で十分。なんで吸血鬼なんだ。主人公を生き延びさせる以外に意味がないのなら、死なない設定でいい。「死」というファクターを用意しないとストーリーをまとめられないだけのことじゃないのか?
 また、別のキャラクター九重二十重エンドは壊滅的に設定が壊れています。というか設定を必要としていないストーリーに、無駄な「化物退治をする少女」という設定がのっかかって一貫性がない。こいつ化物退治をする理由がない。そこら辺の設定は、前提として受け入れてしまえば要らないのかもしれないんだけど、そもそもこのキャラクターがシナリオに要らない。これもクリステルが吸血鬼である必然性がないのと同様。
 
 うーん。なんつーか。
 全体的に主人公が癌で死ぬまでの間にどう人間関係をやり過ごすかを描こうとしているのに化け物を出すからストーリーが転覆するのだと。素直に書けばいいのに。
 そしてシナリオライターにはこのテーマを書ききる技量が足りていない。逃げてる。正面から書こうとしていない。
 ひとつひとつのシーンを丁寧に描き込むのは普通に技量があると思うんだけどね。それでもこのテーマを書ききることなんて出来無くって、変な設定やキャラクターに頼って、シナリオはぐだぐだ。本気でキャラクター設定に助けられただけ。
 
 典型的なF&C作品と言えるよねー。やってみるとダメだと思うのに、やりたくなるのがエフアンドシーの妙な魔力。