『戦略拠点32098 楽園』

『戦略拠点32098 楽園』長谷敏司角川スニーカー文庫角川書店
  ISBN:4044267014
 
 あ、これはいいね。
 この薄さに、必要部分をきちんと描ききっている。世界が完成している。歪んでしまったからこそ閉じきってしまった世界が描かれている。
 なんだか、さわやかだね。泥臭い戦争の余波によって出来た世界なんだけど(戦争そのものは全くと言っていい程描かれていません)、その中でもがいている登場人物がさわやかなんだよ。生きているんだよ。流れてないけど汗が爽やかに舞っているような気がするんだよ。
 描写が取りたてて綺麗だったという印象はないんだけど、細かい着眼点で描写しているから、文章の中にある世界がすっごく鮮やかに見えるんです。よくよく考えるとすごいよ、これ。描いているよ。
 あー、なんか別の著作があるっぽいので、追ってみたいですね。この作品で見せた細やかな着眼点や丁寧に創作して文章に表す姿勢、必要最低限でストーリーを組み立てられる構成力を維持して延ばしていけば、とんでもないことになってるんじゃないか。