『西城秀樹のおかげです』
『西城秀樹のおかげです』森奈津子/ハヤカワ文庫JA/早川書房
ISBN:4150307725
なんてすげぇ本なのだろう。震撼するしかなかった。なんというか、馬鹿さに。
こんなタイトルだったら名前負けしそうであるが、とんでもなく内容がファンキーだ。何がかって、本気で「西城秀樹のおかげ」だと思わなかったから。
この本は短編集です。SFの短編集ですが、どっちかっていうとレズものの官能短編集と言い換えましょうか。言い換えた方がショックを受けないで済むとでもいいましょうか、そんな本。
だって、作中の短編集の中に、同性愛者は犯罪な世界があって、取り締まろうとして女探偵と助手が容疑者のいるバナナワニ園に潜入して女探偵が、女にバナナで襲われて、助手がワニを振る舞われている(ネタバレ)話なんかは印象に残ってます。バナナワニ園って。
そんな感じでどれもこれもエロ的な要素が含まれている馬鹿話なのです。馬鹿話を馬鹿話としてここまでずがんとやられると、もう白旗あげるしかないよね。
そして、表題作の「西城秀樹のおかげです」は、別にエロではないのです。地球に宇宙からのウィルスが入ってきて、レズとゲイだけが生き残る話です。西城秀樹が伏線になってるとは。題名に劣らないインパクトのある内容で、西城秀樹というモチーフを使い、登場するレズとゲイはそれぞれに倒錯してます。
この表題作が凄いのは、一人称視点で書かれた倒錯ぶりを明らかにするために、シーンとシーンの合間で、すとんと客観的な価値観を挿入するところです。一人称視点であらわれる客観的な価値観をあくまで一人称のまま挿入しきっているため、実にすらすらと、どれだけ狂っているか、が読者に伝わるのです。
一人称視点で、ああも客観的に小説を読ませられるとは思わなかったです。凄いっすよ、森奈津子。ちょっと別の作品も買いたいです。
まぁ、積読とバイトが見切りついたら、ね。