『らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜』

らくえん 〜あいかわらずなぼく。の場合〜』(TerraLunar
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 評価を下すなら、エロゲ市場最高傑作な「メタ・エロゲ」と言えるでしょう。
 ええ。メタです。メタな感じです。めためたしてます。
 それに、テキストも演出も何もかもが、素晴らしい。もう。なんというか。時間をおいたくせに文章にまとめ切れませんがな。
 相変わらずネタバレ気味にいってみよー。
 
 主人公は浪人生です。いきなし受験に落ちます。そして東京に出てきて浪人です。
 主人公はヲタです。エロゲヲタです。どうしようもなくエロゲヲタで同人誌とか作っちゃう奴です。
 そんな主人公が、エロゲを制作するストーリー。所属が「ムーナス(moonearth)」ブランド。
 そう。エロゲ制作自体がエロゲになるという形になっているのです。その作中作が「あいかわらずな僕。」というタイトルな訳。
 この作中作の使用法が、めちゃめちゃ面白い。
 千倉紗絵(主人公の中学時代の後輩。元彼女。ムーナスシナリオライター)ルートにおいては、「あいかわらずな僕。」>「らくえん」>「あいかわらずな僕。」という世界の上下関係が見えるような演出をしています。主人公は双子の妹に「にー兄ちゃん」と呼ばれており、主人公の上に一人兄がいて、既に死んでしまったように描かれております。この上の兄「いち兄ちゃん」については「らくえん」内にて何一つ詳しく描かれません。
 ただ、このいち兄ちゃんと「あいかわらずな僕。」が重なるような演出だけはかましてやがります。「らくえん」上の存在である、いち兄ちゃんとか双子の妹が「あいかわらずな僕。」内との繋がりがあるように思わせておいて、「らくえん」内で何一つ語らないのです。
 そりゃあ、当然。「らくえん」内においては「あいかわらずな僕。」は主人公が制作するゲームなのだから。
 世界観に奥行きを出すための方法としては、黒雨にとってかなり斬新に思えました。フラッシュバックとしか思えない形で、綺麗に収まっている。面白い。
 作中作の手法は、これだけに留まらない。
 
 御守みか(主人公と同じ会社内の別ブランド「ミニミソフト」の原画家)ルート。このルートでは、「あいかわらずな僕。」は発売凍結してしまいます。「ムーナス」は解散します。
 そして主人公は「ミニミソフト」へ移籍し、受験を諦めグラフィッカーとして入社。数年後に「ムーナス」のグラフィッカーだった美柴可憐が企画を持ち込みに来て、「ムーナス」の面々が集まってくるというエンディング。
 この企画名が「らくえん」。
 このルートでは、「現実世界」≧「らくえん」(エンディングで出される企画)≒「らくえん」(今説明しているこのゲームそのもの)、とでもするような式が出来ます。ラストシーンで、このゲームが登場人物を描いたゲームだとシナリオ上に書かれたことにより、登場キャラクターである「ムーナス(moonearth)」の面々は現実世界でゲームを作っている「TerraLunar月面基地前(moonbase))」と瞬間的に等符号で結ばれます。これにより、それまでのシナリオに別角度からの光が照らされるんです。
 なんだろう、この感覚。
 一瞬にして視界がぐるっと回るよな、背負い投げでもされたような感覚。
 ぐるんと一回転した挙げ句に、元の場所に視点が戻るよな、そんな爽快さ。
 なんていうか、すっげぇ面白い構造になってます。
 
 他のキャラクターのルートでは、こんな作中作を作った回転劇というよりも、今僕たちが存在すると言えるこの世界に足をつけて背伸びしたような、そんな丁寧なシナリオです。
 楽しい。楽しい。すげぇ楽しい。感激である。
 そして深読みだったらいくらでも出来るようなそんなストーリー。シナリオライターには舌を巻く。全部情報は与えておきながら、何一つ断言させてくれないシナリオ。この手の入れようは戦慄としか。言いようが、ない。
 極めつけはおまけですよね。「ぼくのたいせつなもの。」。これは「らくえん」内における「ミニミソフト」が作ったゲームとして位置づけられているものですね。
 上に書いたように「あいかわらずな僕。」をおまけにすると、千倉紗絵ルートでのフラッシュバック的な演出が無駄になりますし、ね。
 
 あー、このような観点からこの作品について書いたのは、理由があります。
 http://www.geocities.jp/judge13th/o18/rakuen.html
 http://d.hatena.ne.jp/judge/20050119
 このサイトに書かれている熱量ある文章読んじゃったら、なんかネタがかぶらないように書くしかなかったわけですよ。同じ事書くくらいならリンク貼ります。意地でも。これでも文章を書くものとしての意地として。
 というわけで、id:judgeさんの文章にリンクさせて頂きます。キーワードから遡って見つけました。
 
 何はともあれ、就職と学生の狭間のような時間にこのゲームをプレイできたのはタイミングとしてよかったと思います。何かに取り組む熱量というのを実感して、自分にそれが出来るのか再考するような、なんかそんな感じです。