『僕らはどこにも開かない』

『僕らはどこにも開かない』御影瑛路電撃文庫メディアワークス
  ISBN:4840230404
 
 面白かったですよ。
 イラストのないライトノベルという事で打ち出されてきた奴ですが、まぁ確かにイラストに飲まれたことを逆利用するような谷川流みたいな事やったら二番煎じになってしまうよなぁ、という気がします。
 ライトノベルのイラストについては、長くなるので、そのうちに時間があったら纏めて書くとして。
 内容に関しては問題作というほどの問題作でもないような。前にうだうだ書いたようにライトノベルという現象が拡販していっている今、電撃文庫にもこういう作品は現れてしかるべき、と思います。ただ、それが発展した暁に「ライトノベル」という言葉が、意味から派生したものではなくなり、ただの記号になるんだろうなぁ、とは思いますけれどね。
 ところで。
 読んでいる最中にずっと感じていたのは、この小説、やけにサイコホラータイプ(とでも呼べば良いんですかね?)のエロゲーのシナリオっぽい。GW中に『CARNIVAL』やってたせいかも分からないけれど、めちゃくちゃそういうのを感じる。
 むしろ、この作者である御影瑛路には、一旦エロゲーのシナリオを手がけて欲しいです。この作者の展開能力があれば、エロゲーのシナリオが凄く奥行きのあるものを書けそうだと思うんですよね。マルチエンディングであるが故の弱点を包括した物語を展開してくれそうだと思うのですよ。
 まぁ何故エロゲーのシナリオを思い浮かべたのかというと、主人公が空白である側面とキャラクター配置、文章構成や展開が、とてもエロゲー的であるからなんですが。
 
 まぁ、そういう風に感じました。これ。
 なのでこう考えてみましょう。
 この作品にもしイラストが付いたとしたら。それも流行りの萌え系絵師に。
 そうなったら、エロゲー色がより強くなってしまうんですよ。それはおそらく避けたかったのだと思います。
 さんざんエロゲー的だと言いましたが、「たったひとつの冴えたやりかた」さんところで言及されているように、この作品はエロゲー的であると同時に(というよりもエロゲー的であるからこそ)、ファウスト系の臭いもするのです。
 販売戦略としては、おそらく電撃文庫はエロゲより、ではなくファウストよりにしたかったのではないかと思うんですよ。
 ファウストってエロゲライターに小説書かせていますが、あれエロゲー的シナリオ要素を文芸*1に持ち込むっていうことをやっているので、それに便乗しているのではないかと。
 
 まぁ思惑はどうあれ、この作品は純粋に読んで楽しいですよ。キャラクターがとても病んでいて、病んでいて「僕はどこにも開かない」わりには、「開かない」なりに「開いている」んですから。
 最後がああいうエンディングになるあたりが、電撃文庫である所以だと思いました。

*1:ファウストは「文芸」と名乗っているので文芸扱いにしておきます