『All You Need Is Kill』

All You Need Is Kill桜坂洋集英社スーパーダッシュ文庫集英社
  ISBN:4086302195
 ああ、よかった。面白かった。
 時間ループものに、説明とも取れぬ説明、って要はそれは作品内でのルールとも言うべきものなんだが、それをきっちり説明した上で、要所要所をみっちり描ききった本作。
 ぐるぐるぐるぐる繰り返される戦場前日と戦場の描写に読んでいる僕らも成長を遂げていき、主人公と同じ勘違いを重ねさせられる。その感情輸入ならぬ認識輸入とでも言うべきそれの手腕はさすがとしかいいようがない。
 そう、時間のループが繰り返されるが、その時間のループがもう起こるものとして認識してしまうので、些細な描写が後追いでしかやってこない。繰り返しが繰り返されると先入観が先走って、読後に気付ける作品構成は見事の一言。
 んで、エンディングがあれで本当によかったと思う。これであれ、ハッピーエンドだったら一気に三文小説ですよ。時間ループとか人間外の生命体との戦闘とか、とてもありふれたテーマで「お前、わざわざチープになってしまいがちな道選ぶのかよ」とでも思うくらい、本当にギリギリのバランスを保っている作品。
 イメージは氷の彫像。何度かの推敲で削りだして完成したはいいけれど、溶けるしまったく頑丈じゃない。それでも、とても透き通って仕方ないんだ。
 これは、そんな作品。
 
 ところで、安倍吉俊をどっから持ってきたんだろう。ほら、このレーベルいつも同人あがりとかエロゲンガーあがりとか、そういうのよく使うじゃない。集英社だからといって大して強くないレーベルだと思ってたのになー。