『人類は衰退しました』
『人類は衰退しました』田中ロミオ/ガガガ文庫/小学館
ISBN:9784094510010
現代社会への皮肉、なんてものと全く関係のないエンターテイメント作品。ごく普通に面白かったです。
このおもしろさは何だろう、と思って気づいた。
天然の行動をする人を観察しているときのおもしろさだ。
さて。
この小説では、主人公は完全に観察者側に回っている。神の視点だとか、そういう話ではなく、作中で観察をするものとしての存在だ。
何を観察するのか、といったら、それが衰退してしまった人類の変わりに地球を支配している“妖精さん”なのですよ。
つまり、この小説は、作中でも何度か出ているが「フィールドワークのレポート」なのである。
フィールドワークという前提があるからこそ、作中でもある通り、観察対象とある程度の関係は築けても、それ以上を踏み込むことはできないし、何らかの影響を与えることはできない。
作中で描かれる主人公である人間と、観察対象である“妖精さん”との間には、フィールドワーク上の関係しか存在しない。だからこそ、そこに物語は存在しない。
この小説は、そういった意味で、完膚無きまでにフィールドワークのレポートなのだ。
フィールドワークには当然、観察者の視点で語られる。そのため、出来事の発端から収束までを時系列にそって見ていくことになる。観察中の出来事を切り取るからこそ小説として起承転結が生じる。その時系列があたかも物語的に思えるかもしれない。
だがそれは物語ではない。作者・田中ロミオが考えた“妖精さん”という存在についてのレポートなのだ。
物語ではないからこそ、衰退した人類が再び隆盛を取り戻す必要もなければ、主人公が成長する必要もないし、人類と“妖精さん”との関係が良好になったり悪化する必要もない。終わりもなければ始まりも必要ない。始まりは観察を始める時で、終わりは観察をやめる時なのだ。
あるのは、ただ“妖精さん”を観察することだけ、なのだ。
観察対象である“妖精さん”の生態があまりにコミカルなので、自然にすらすら読めてしまいますが、これは他に類をみないほど、物語を必要としない小説となっている。
これは、ある種、新たな小説の形、と言えるような気もするんですが、いかがでしょうか。