『奇偶』

『奇偶』山口雅也講談社
  ISBN:4062115824
 
 あれ、これって黒雨は発売日に買ってたんだけどなぁ。もう2年経つんですか。えらい積んでましたな。こないだ100ページくらい読んで止まってたんですよ。教育実習中に読んでいたんですが、教育実習が終わった途端に荷物のどこかに埋もれて。今回帰省するとき発掘され、ようやく読み終わりました。
 
 早く読んどきゃよかったのに。
 
 というわけで『バナールな現象』より楽しめました。現実認識のずれって奴は黒雨がとても興味を抱いている問題で、それを全て偶然という観点から世界だろうと何だろうと切り取ろうとすればするほど本来の世界がぐるぐるまわる。後半にいくにつれてこの軽快なテンポに身を任せると、とてつもなく楽しく翻弄されることが出来ます。
 
 また、偶然という観点が物語全体に散らばっていて、推理小説に喧嘩売ってますね。なんでしょう。黒雨はそこいらの知識がないんですが「アンチ・ミステリ」って言ってもいいんですかね。オドオドしながら書いてますけど。
 
 一番楽しかった物言いは、直接偶然に関するものではなく、シルフィーという登場人物がぶつぶつ呟いていたセリフです。

「あなたは、あなたじゃない」シルフィーが呟き、ワタシは絶望に駆られた。「ワタシも、ワタシじゃない。いろんな可能性があるの。いろんな道が分かれていて、いろんな、ワタシがいる。だから、別のワタシを連れて帰ったらいい。……(以下略)……。」
『奇偶』438頁8〜11行

 こういうテーマが大好きな黒雨はここにいるのかどうかわかりません。