富士見レーベル雑感 その2
富士見レーベル雑感 その2〜富士見ファンタジア文庫を流れとともに現状を見据える〜
既にもう書くのがめんどくさくなってるけど、始めた以上まとめます。
富士見ドラゴンブックなどのTRPGとかゲームブック側にあまり触れないのは、黒雨が詳しくないせいなんですが、富士見ファンタジア文庫初期には、TRPGなどが欠かせない影響を持っていました。TRPGとかと共に入ってきた海外ファンタジーに影響され、日本の国産ファンタジーとしてのレーベル「富士見ファンタジア文庫」が確立されていきそうなラインナップだったのです。竹河聖の『風の大陸』*1だったりはその代表例ですが、それと並行して園田英樹の参入とか松枝蔵人とか寺田憲史とか割と混沌としています。
富士見ファンタジア文庫というレーベルを決定的に位置づけたのは、ファンタジア長編小説大賞でしょう。受賞作のうち佳作とか審査員特別賞とかからでも出版されていくので、受賞作全般から方向性が伺える。
んで、神坂一の準入選によりファンタジーといってもファンタジー要素のみで話が構成され、コメディータッチでもある作品がヒットを飛ばす。ハードなファンタジーが、この隆盛のせいで徐々に押されていく。まぁわりと硬派なファンタジーもあるにはあるんです。櫻井牧の『月王』*2だったり五代ゆうの『はじまりの骨の物語』*3なんかが筆頭に、硬質なファンタジーは決定的に富士見では読者に受け入れられず、消えていきます。ですが賞は取ります。そのあたり、どこかしら編集部と審査員のズレがあったのかと。
こういったファンタジーの流れと並行して、富士見ファンタジア文庫はSFの流れを内包します。そもそも通し番号「1」、最初の刊行に田中芳樹作品がある時点でその流れはあったのでしょうけど。岬兄悟、笹本祐一なんかを経て、ファンタジア大賞作家として小林めぐみがSFの流れに参加します。小林めぐみは、SFが編集者に受け入れられないため、ファンタジー要素を利用してSFだと思わせないようにして作品を構成する手法を取り、富士見ファンタジア文庫で受け入れられます(これは著者があとがきにて明記)。このため、富士見ファンタジア文庫内にSFの流れが確固として発生し、後に野尻抱介『クレギオン』*4シリーズなんかが出てきます。
んで、欠かせない富士見ファンタジア文庫の隠れた内包物。それが時代小説です。朝松健がさりげなく富士見ファンタジア文庫で書いています。掘り出せば結構色んな人が時代小説的なものを書いています。ファンタジア長編小説大賞作家にも時代小説は結構書いている人がいて、昆飛雄の『杖術師夢幻帳』*5なんかその代表例。ただ、富士見ファンタジア文庫は時代小説的なものも排除しようとします。時代小説として、冴木忍が『夢と知りせば』*6を書きます。しかし、それを刊行する際に、富士見ファンタジア文庫に含めず、単行本として出されたのです。……うわ『夢と知りせば』がamazonで新品取り扱ってるよ。買えば?
まぁ以上のように流れをたらたら書いたけど、なんか「排除する」「排除する」ばっかり書いてますね。つーか、排除されてるようにしか思えないってだけなんだけど。
ということで、以上のような流れがあったんですが、硬派なファンタジーやら時代小説やらは排除されていったように思えます。だから『カオスレギオン』*7の感想で思わず「富士見の最後の良心」とか書いてしまうわけです。
現行の富士見ファンタジア文庫がどういった流れになってきているかというと、今までのジャンルの流れとともにギャルゲーのノベライズやら『サクラ大戦』*8のノベライズなど、美少女ゲームというやつのメディアミックスの影響から発展してきた、実にギャルゲーっぽい内容のオリジナル小説が台頭しています。
それが、いわゆるオタク向けライトノベルなんでしょう。別にファンタジーでもSFでも時代小説でもホラーでもなんでもないような、本当にもう「ライトノベル」以外にジャンルがいいようのない作品が出てきています。今までのジャンルに出てきたものを全て「要素」として取り扱ってお話をつくったものを刊行するレーベル。それが富士見ファンタジア文庫という名の混沌です。読者層を絞ったわけでもなく、本当に全ジャンルがある意味で融合しています。そのせいで人によって読むものに偏りが出てくるレーベル。
それを「富士見ファンタジア文庫」と呼ぶんじゃないかな、なんて黒雨は感じているわけです。