『カオス レギオン03 夢幻彷徨編』

カオスレギオン03 夢幻彷徨編』冲方丁富士見ファンタジア文庫富士見書房
  ISBN:4829116188
 
 うわ、すげ。
 という単純な感嘆詞がまず出てきちゃったんだけど、凄いね素直に。
 何が凄いと感じたかって、このストーリーを書き切れたことが凄い。
 主人公ジークだけでなくその他登場人物の殆どが、主観的に感じる時間や記憶を失ってしまっているという物語なのに、三人称で書ききっている。
 いや、一人称の視点切り替えだけでは、その時間感覚の喪失や記憶のすり替えなんかから抜け出すことを書ききれないんだけれども、三人称だと一人称ほどの臨場感が出にくい。
 それは当然なことなんですが、その当然が当然として当てはまらない冲方丁。見事に三人称で書ききっている。ほら、一人称が下手に混じりすぎて三人称と言い切れない中途半端な人称で書かれるものってあると思うんですが、そんな事を断じて許さず、三人称のみで恐ろしく鋭利にこの物語が内包しているテーマというか要素というかを余すことなく提示しきっているんです。
 すげーよ。並じゃねーよ、冲方丁は。
 
 なんでこれだけの要素をこの分量で過不足なく書けるのか不思議です。後書きで、規定枚数オーバーしてしまって的なことを書いてますが、それは富士見ファンタジア文庫としての分量としては多いってだけで、この『カオスレギオン03』という物語で捕らえたら、それはもう規定枚数を下回ってますから。