連載予告編:先の見えてるプロローグ

 朝目が覚めた時には、どうしようもないくらいに眠かった。やる気を失いつつ、スーツに着替える。
 準備が整ってしまった。行かなければならない。
 僕は、母校であるA高校へ向かい、実習のガイダンスの会場に到着した。
 プリントに、実習生の名簿、担当教員名のリストが載っているプリントがある。おかしい。
 何がおかしいというわけでもなく、教科の配分があきらかにおかしい。「情報」が4人いて「英語」が1人だけってなんだろう。「社会」が多いのは認めるけれど。
 回りを見渡すと、24名ほどの教育実習生。知り合いが、いない。
 高校時代を思い返すと、友達と呼べる存在が限りなく少なかった自分に気付く。そうか、いるわけがない。
 クラスメイトが一人いたが、話しかけることも話しかけられることもなく、ガイダンスが始まる。
 現時点で、教生同士で仲良くなる彼らの脇で、一人孤独にしているだろう姿が目に見えてしまった。だが、それはこの際気にしない。
 
 話しているのは、見覚えのある人たち。それが、スーツ姿で。
 どうやら、教務という役職に配属されることになり、ネクタイを締めるようになったらしい。生物教師、森上がそう言っていた。
 ネクタイを締めている森上先生に違和感を感じる。彼はそんな人間じゃなかった。いつも白衣を着て、授業中に買ってきたホヤ(発泡スチロールにのせラップに包んだ状態のもの)をいきなり開封して生で食べるような、そんな教師だったんだ。授業中に大声で大富豪をやっていた僕たちのグループに近づいてきて「もう少し小さい声でやったらいいと思います」と言った彼は、もういない。
 そのことに哀愁を感じた。
 ガイダンスが終了し、担当の教員との打ち合わせをすることになった。
 職員室へ向かい、吉岡先生を捜す。見つかった。挨拶をして話を始める。
 吉岡先生は、僕が2、3年の時の担任だった。彼の髪型は特徴的なハゲ方をしていたんだ。その前髪が少し増えていたことに、日本人的なわびさび、というものは隠されているんだと思う。そう思うことにしないとやっていられない。
 打ち合わせは、ものの数秒で終わった。教科書を渡され「Lesson4から」「3コマを4クラスで」と言われ、終了した。やる気のなさが感じられる。
 
 こんなことで、教育実習がうまく行くというのだろうか。不安に感じながら、めんどくさくなって一人だけさっさと帰ることにした。
 もう、孤独に教育実習を行うだろう事は確実だった。