第02話:終わりのクローン精製

 見えたのは光でも希望でもそんな正方向のベクトルのものじゃない。いつだって負の方向だ。これは視力以前に概念の問題だ。黒雨の脳には負の方向でしか概念が存在しない。そのほかの概念は一概にこう呼ばれる。
 −−「敵」と。
 
 初めて集団で授業を行うんでさぁ。当然初めて黒雨が入るクラスだったわけよ。初対面の生徒達。黒雨に課されているのは、そう、自己紹介っていう算段なわけさ。
 ところがちょいと待ってくれよ。自己紹介だよ。
 教師という役割として、黒雨の何を紹介すればいいっていうんだい? ほら、検討もつかねぇだろう?
 しょうがないから、素早く済ませるわけさ。
「初めまして、今日から2週間ほど英語を担当する教育実習生の黒雨です」
 このひとことに集約されるわけですわ。
 これがどうよ。その直後に「じゃあ授業を始めるから」って言った途端の生徒達の負の視線。もう針のむしろって奴でさぁ。黒雨がどうしたかってーと、ガンムシ。黒雨にそんな度量はねーの。あきらめろっての。
 そうして授業進めたところで、あわあわするわけでさぁ。もう見てられない。塾講師を半端に個別指導だけやったせいで、集団を前にしてテンパっている姿を、客観的に見る冷静な部分が黒雨の中に残ってるわけですわ。判断できたところで、対処する余裕がないのが問題なわけですがね。
 
 なんつーか、そんな授業を繰り返していたら、明日が怖くてやってられないんですわ。もう帰りたい。