『カレとカノジョと召喚魔法』
『カレとカノジョと召喚魔法』上月司/電撃文庫/メディアワークス
ISBN:4840228299
これは案外、面白かった。
なんというか、ミステリ的な構造のライトノベルにおける正しい使い方というかなんというか。
黒雨は過去に『12月のベロニカ』を、リーダビリティが「ミステリ」的なところにしかない「ファンタジー」である、という点から批判しているという事を踏まえつつ。いや、面白かったが認めはしない、という頭の固いことを書いただけですがね。
この作品では「ファンタジー」というところに囚われてはいない。ファンタジーでもなんでもなく、「ライトノベル」という現象のひとつに位置するのである。
そのライトノベルというのは、ジャンルとして成立してはいない(他の「ジャンル」と呼ばれるものをから想像するような縛りなど一切ないという点で)が、ある程度の文脈によって語られるもの、ということで、ここは一つ片づけておいてください。
まぁ、それとして、この作品は、召喚魔法とか悪魔とか天使とかジャラジャラ出てくるんですが、それはライトノベル的手法によって出てくるだけであり、ファンタジーでも何でもない。要素として取り入れられている。
その中で、ミステリ的な構造によるどんでん返しと、主人公の推理結果が語られるんだけれど、その使い方が上手いなと思ったんですよ。
話の大まかな筋が、そのミステリ的要素にあるんだけれど、リーダビリティはそこだけにない。格闘ものでも、恋愛でも学園ものだろうと、何でも詰め込まれて置きながら、そこにはジャンルで解体出来ない何かがある。
それが「ライトノベル」なのかもしれないが、相変わらず黒雨はそれを、上手く言葉に表せない。それが何なのかはよくわからないが、そこを語るがために、ジャンルというジャンルを内包して咀嚼してゆるゆるにかみ砕いて飲み込んで、なおかつ消化した結果表れたのが、ライトノベルなんじゃないかと考える。
その意味において、この『カレとカノジョと召喚魔法』は真っ当にライトノベルをしているライトノベルだ。
重要なのは、上に書いた「ジャンルというジャンルを内包してかみ砕いて飲み込んで、なおかつ消化した結果」の後半であり、きちんと消化した上で提示されないと、ただごちゃごちゃしてつまらなくなる。
そこをきちんとしているので、これは予想外に楽しめました。まる。